窓の外からうっすらと光が差し込み、小鳥の鳴き声が小さく聞こえてくる。
早朝。学生時代の制服に袖を通し、手早く着こんで熱いコーヒーを淹れる。火傷しそうになりながらそれを飲み干すと、ペンの入ったカバンを肩にかけ、次郎はアパートを後にした。
目的地には、既に多くの受験生が到着し、思い思いに準備を初めていた。次郎も筆記具を取り出し、机の上に並べて置く。 やがて、問題を抱えた試験管が扉を開けて中に入ってきて、試験の概要が伝えられた。
チャイムの音とともに試験が始まり、受験生のペンを走らせるかりかりという音が響く。
弁当を食べながら、午前中の問題を思い出す。携帯端末の画面に表示される模範解答と自分の答えを比較してみる。得点は突出してはいないが、まずまずではないか。午後からの試験もこの調子でがんばろう・・・。
大事な問題は完答できていたし手ごたえはあった。後日、結果の通知が届いた。予想通り次郎は「デザイナー」の初試験に合格していた。
「デザイナー」にもランクがあり、上級は航宙兵器の設計開発の指揮を執るデベロッパー(開発担当者)、中級は上級担当者の指示を聞き開発の指示を出すサポーター、そして初級は航宙兵器の整備を担当するメカニックだ。上級、中級、初級のそれぞれにおいて、各級がさらにABCの3クラスに細分されている。
「さあ、これからがんばるぞ。」
次郎が合格したのは、初級C。デザイナーとしての最初のステップだ。反応速度の適性の関係で合格できなかったチェイサー。その代わりにようやく思いを定めたデザイナーとしてのスタートラインに、おのずと気も引き締まる。
「おはようございます。」
小さな門を押し開けて工場に入ると、次郎は小さな声で先輩たちと朝の挨拶をした。 机の上の端末の画面を開き、今日の作業予定に目を通す。人型タイプの両腕の組みつけと、エンジンのオーバーホール。時間のかかる作業が数件だ。今日も深夜までかかりそうだ。
メカニックとして働き出して2年。エンジンや可動部分などの大物の作業も任されるようになってきた。 だが次郎はまだ満足してはいなかった。一日も早く開発者として自分の思い描いた航宙兵器を開発したい。そこには、チェイサーとして直接活躍することは出来ない代わりに、チェイサーが駆る航宙兵器を開発することで自分自身が愛機を駆って戦っているような気持ちを持てるのではないかという次郎なりの想いが働いていた。 両手を真っ黒にさせながら次郎は黙々と作業を続けた。
「おはようさん。今日も頑張ってる?次郎ちゃん。頼んでおいたミサイルポッドの調子はどう?」
「うーん、試してみた感じ、射出装置のシリンダ内のクリアランスが少し広くなってるみたいなんで、内部の部品を分解して交換やっておきます。あとの部分はまあまあいい感じですよ。」
「よろしくね。出来るだけ今日中に完了してミサイルポッドは明日組付け納品したいのよね。」
「了解です。やっときます。」
サポーターとして働きまた2年。試験を受けてから4年が経った。
合格を約束し合い一緒に目指した彼女とは、クロスと抱き合う姿を見かけて以来、会っていない。たまに聞く噂では、撃墜数が同期のトップ3だとか、クロスとの交際は続いているらしいとか、そんな話がたまに耳に入ってきた。顔が見たい、声が聞きたい、そう思うことも時々あるが、守れなかった約束、今の自分のまだ十分とは言えない立ち位置、クロスと彼女の関係を思い出すと、その度に躊躇われた。
一度だけ、彼女から電話がかかってきたことがあった。嬉しかったが、一方で約束のことを聞かれるだろうかと考えながら話を聞いたが、彼女の電話の内容は、受験の同期で同窓会的に飲みに行かない?、というものだった。少し考えて、辞退した。やはりどうしても、約束を果たせなかった自分には、身の置き場が見つからない気がしたからだ。
彼女のことを思い出した日は、仕事をあがってもそのまま帰宅せず、飲み屋に寄って、カウンターで背中を丸めて座り一人飲むことが次郎は多かった。自分にもいつかまぶしく輝く未来が来るのだろうか。来てほしい、いつか、こんな風に背中を丸めることもなく、自信をもって、愛する人を胸に抱くことができる日が。今はまだ、道は遠く、差し込む光はとても小さいけれど・・・。
そんな想いを胸に、今日も部屋に戻ると次郎は着替えもせずに毛布をかぶり、エビのように丸くなって眠った。オンディーナのドームがとても緩やかに回転していく音が微かに幽かに響く中―――。
[履歴]
ver.1.00(初版) 2019-1-8
「クルーズチェイサー BLASSTY」の第2話です。
えー・・・長かったですね。続きを書くまでが。前回のを見てみると、2005年なので、13年以上経ってました。(汗)永野護の「FSS」とか、最近の「ベルセルク」の新刊を待つのなんか、目じゃないですね。次はいつでることやら。(笑)いや、多分、1話と2話の間ほどはかかんないと思います。
次郎君、まだ自分の満足いく仕事が出来てません。黙々働いてます。彼女いません。応援してあげてください。メカも戦闘シーンもまだ登場しません。
キーワード: BLASSTY